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【ワインの返品】ブショネ、悪質なクレーマー、返品詐欺について語る

2023年7月13日

【ワインの返品】ブショネ、悪質なクレーマー、返品詐欺について語る

私の短くないワイン業界のキャリアの中で「ワインの返品」について悩んだことは数知れず。
今回はワインの返品について語っていこうと思う。

ワインの返品のパターン

返品にはいくつかのパターンがある。

【返品パターン①】ブショネ

コルクの消毒に使われる塩素系薬剤とコルク栓に寄生する微生物によって「TCA(トリクロロアニソール)」が発生することがある。
そのTCAや「コルクの汚染」が原因で、ワインに「カビ」や「湿った段ボール」のような不快な香りが付いてしまうことを「ブショネ」と呼ぶ。
ある意味、運命的なガチャのようなもので、これはコルクを使用しているワインにとって避けられない状態不良だ。

最近のブショネ事情

一昔前は「ブショネだから返品に応える」ことが常識のような風潮があったが、最近では返品に応じない小売店が増えたように思える。
主に理由は下記の3つ。

  • ブショネは生産段階に問題があり発生するので、店側に不備が無いこと
  • コルクを使用している限り、ある程度は避けられない(運命である)こと
  • ボトルの中身を入れ替える返品詐欺防止

ワイン中級者ほど、自信満々にブショネの返品を要求してくることが多い。
しかし、一度自宅に持ち帰り抜栓している時点で、「どのような環境」で「何をしたか」が分からないので、全てを鵜呑みにして返品に応じるわけにはいかない。
中身をブショネのワインに入れ替えている可能性も捨てきれない。

ただ、飲食店となると話は別だ。
カジュアルレストランでは機会がないが、少々高い店に行くとワインを抜栓した後にホストテイスティングがある。
ソムリエがグラスにワインを少量注ぎ、客側にワインの状態を確認して貰うのだ。

その時点でブショネが発覚したら交換できる。
目の前で抜栓してそれがブショネや熱劣化などの状態不良ワインだったら交換せざるを得ない。
不味いワインでコース料理を台無しにすることは、ソムリエとしてもシェフとしても看過出来ないはずだ。

ブショネの特徴① ワインの香りが弱く、明らかに変な香りがする

華やかな果実香や花のような香りを感じ取れず、カビやカルキ、湿った段ボールのような不快な香りがする。
最初は微弱な違和感でも、時間が経つと強くなってくることが多い。

ブショネの特徴② 果実味や酸味、タンニンを感じず、変な味がする

飲めば分かるが、明らかに不味い。
果実やタンニンの要素はなく、ただただ不快なえぐみや辛味、違和感。
程度にもよるが、大抵時間が経つと悪化する。

【コラム】ワインの試飲会でブショネが発覚したら?

ワインに携わる限り、ブショネは避けられない。
それはワインの試飲販売や催事場、商談の場だろうが関係ない。
メーカー側は経費の関係もあり、軽度のブショネなら、しれっとブースに出したままにしていることもある。
一般客やワインに詳しくないバイヤー、酒担当なら騙せるが、経験を積んだテイスターだとそうはいかない。

商談の場合

私がとある高級スーパーのワイン選定会に本部のバイヤーと参加した時のことである。
広い会議室の中にワインが60本ほど陳列されており、抜栓は既に済んでいた。
営業の説明を聞きながら一本ずつ飲んでいくのだが・・。

その中のジュヴレ・シャンベルタンが軽度のブショネだったのである。
不幸なことに我々陣営の方で気が付いたのは私だけであった。
因みに営業さんは私も認めるテイスターでブショネに気が付かないわけはない。
ジュヴレ・シャンベルタンを検索してもらえば分かるが、かなりの高価格帯なので、軽度のブショネで廃棄するわけにはいかなかったのだろう。

勿論、私はその「ジュヴシャン」に対してコメントはしなかった。
「ブショってるじゃん」と言えば場を盛り下げるし、「良いワインですね」と言えば私の沽券に関わる。
私の葛藤を余所に、隣でバイヤーは「良いワインですねぇ」と発言していた。

それは果たして取り繕ったのか、気が付かなかったのか・・、今となっては知るよしもない。
試飲会を伴う商談は「戦場」なので迂闊なことは言えないのだ。

試飲販売の場合

後悔とまではいかないが、今でも記憶に残っていることがある。
これは私が都内の有名ワインショップで試飲販売に立っていた時のことだ。
当時の私はまだ新人で発言力は無かった。

その日は年に数回の試飲イベントで店内は大騒ぎであった。
スタッフは全員サーブに回っていたが、運悪く私の前にあったドイツのリースリングが軽度のブショネだったのである。
店側も売り上げを取ろうと必死のため、ブショネが軽度だったこともあり、そのまま提供することになった。

私はドキドキしながらサーブしていたが、お客は全く気が付かなかった。
・・が、お客の中でも特段ワインに詳しい常連が来てしまったのである。

その方はワインを飲むと「あれ、これは・・」と呟いた。
私は気の利いたことは言えず、「そ、そうですね」としか答えられなかったが、あの時のお客様の怪訝な表情は今でも記憶に残っている。

私はブショネに関して、提供される側、提供する側のどちらも経験しているが、やはり後味の悪いモノである。

【返品パターン②】熱劣化

夏場に起こりやすい状態不良。
熱劣化を起こすと、華やかなフルーツのアロマや果実味は影を潜め、ひねた香り、酸っぱい味わいになる。
酸化してお酢のようになっていると思って欲しい。

中々文章では表現しづらいが、紹興酒やマディラ、シェリーのような香しいアロマ「ランシオ香『酸化熟成』」にニュアンスは似ている。(似ているだけで非なるもの、例に挙げた酒たちは美味い)
味はえぐみや強い酸味が際立っており、飲めないわけではないが決して美味しくはない。

熱劣化は生産時、輸送時、店舗での保管時に起こる可能性があるため、状況によっては返品に応じることがある。
店に納品される前、つまりセンターで既に噴いてしまったワインも沢山あるからだ。

しかし、客が自宅で熱劣化を招いた可能性も捨てきれないため、購入から1~2日と短い期間なら応じるといったところだろうか。
ワインは食品なので、一度でも店から外に出て別の場所で保管されたモノを店舗に戻したくないのが本音であるし、衛生管理の面からでも当然だ。

【コラム】悲惨なワインの物流事情

百貨店やスーパー、高級ホテルでワインが冷蔵で保管されていると思っていたらそれは間違いだ。
どの職場でも食品がメインで酒類は脇役なので、保管面で冷遇されていることが多く、特にカジュアルワインは基本常温で置かれている。
更に言えば、店では冷蔵庫に入れていても、それが常温便で納品され既に劣化していることも多々ある。

大手ビールメーカーのワイン等は真夏でも常温のトラックで納品されてくることが多い。
これまでもビールは基本常温で納品してきたので、そもそも「冷やす」と言う概念が欠けており、ワイン文化の浸透に企業のルールの方が追いついていない。
また、全国規模の納品になると、高級ワインはまだしも、カジュアルワインを全てリーファー便(冷蔵)にすると経費が馬鹿にならない現実もあるだろう。

大きいチェーン店の場合、メーカーからセンターを経由してくることが多いが、そのセンターも基本常温である。
誰もが知っている大企業、日○橋にある食品商社のセンターも、ワインが置かれている温度が40℃近かったと報告を受けたこともある。

しかし、ワインショップとなると状況が変わってくる。
門店ではメーカーから直接冷蔵便で納品され、寒い店内、もしくはセラーで保管されることが多い。(大きい量販店は除く)
ネットショップの場合はこの目で倉庫を見られないので何とも言えないが、私が以前働いていたそこそこ有名なネットショップでは地下の倉庫でエアコンを2台と加湿器をフル稼働させて品質を維持していた。

ポイント

大規模になると光熱費や物流費がかさむため、ワインの品質保持に手を抜かざるを得ないが、中小規模のワインショップ、ワインのネットショップなら信用しても良いだろう。
大手の安売りに対抗するには「品質」しか無いのだから。

【返品パターン③】ラベル不良

ワインのエチケット(表ラベル)に傷が付いていたと言われることがある。
味に問題が無いため、基本的には交換には応じない。
百貨店のようなお客様第一の業態だと応じる可能性もある。

【返品パターン④】コルクが抜けなかった

信じられないかもしれないが、コルクが硬くて抜けなかったと言う理由でクレームを付けてくる客が存在する。
その場合は客の許可を得てこちらで抜栓し、交換には応じない。

コラム

以前、クラブのママが稲葉のイ ムーリが抜栓できなかったとクレームを付けに来たことがある。
キャップシールはボロボロ、コルクも削げていたので、交換に応じても再び店に出せる状態ではない。
ママの目の前で抜栓して問題が無いことを確認すると、「今日は飲む予定ではなかった」と再びクレームを付けてきた。
とてもワガママなオバサンだったので、店長を呼びに行き、戻ってくるとオバサンはイ ムーリを持って帰った後であった。

【返品パターン⑤】美味しくなかった

ただ、好みに合わなかったと言う理由で返品を要求してくることがある。
一応、試飲カップでブショネか熱劣化ではないか確認はするが・・、一度お客が持ち帰ったワインを飲むことに抵抗があるスタッフもいると思う。
物騒な世の中、ボトルに何が入っているか分からないのだから。
勿論、お客都合の返品には応じられない。

コラム

美味しくなかったと言う理由で返品を要求したオジサンがいたが、既にボトルの半分以上の量を飲んだ後であった。
美味しくなかった割にはかなりの量を消費していたので丁重にお断りをした。

返品詐欺のパターン

世の中、悪い人がいるもので詐欺まがいのことをされることもある。
経験を積むと撃退できるが、新人だと慌てるだろう。
一人で抱え込まず、先輩や店長を呼んで対応してもらおう。

【返品詐欺①】スクリューキャップが開いていた

最近はコルクではなく、スクリューキャップのワインが増えている。
伝統にお堅い国フランスの比較的高価格帯のワインでもスクリューキャップを見掛けるようになった。

ある日、小太りのオジサンがワインのスクリューキャップが既に開いていたとクレームを付けてきた。
そのワインはテラヴェールの「マコン・ヴィラージュ・テール・ド・ピエール『生産者はヴェルジェ』」で、マコンでありながらスクリューキャップだったのだ。
小売価格で3,000円程度。
私は休憩で不在、ワインに詳しくない店長が品出しに追われながら対応し、新しいマコンと交換してしまった。

後に防犯カメラで確認すると、小太りのオジサンが自分でワインを開けて店員にクレームを付けてきたことが判明した。
つまりオジサンはお金を払わずにマコンをゲットしたのである。

店長が悔しそうに「そう言えばオジサンがやけに嬉しそうだった」と後悔の念を口にしていたことを覚えている。

何故、比較的高価格帯のワインを大した確認もせずに交換してしまったのか。
実はその時期、同じくヴェルジェの低価格帯ワイン「ヴェルジェ・デュ・シュッド オー・フィル・デュタン ブラン」を大規模にセールをかけていたのだ。
価格は1,000円強で、エチケットも似ていたため、そのワインだと勘違いをして交換(を許可)してしまったのである。
実際に対応したのはサービスカウンターのアルバイトだったため、発覚が遅れたのだ。

店長は次にそのオジサンが来たらとっ捕まえると意気込んでいたが、その機会は二度と無かったのである。

【返品詐欺②】スクリューキャップがすっぽ抜けた

最近では減ったかもしれないが、当時はスクリューキャップが硬くて回らないものがあり、無理して開けようとすると、スクリューキャップが根っこからすっぽ抜けることがあった。
開かない場合はスクリューキャップをソムリエナイフでガリガリ切れば良いのだが、若干難易度が高いかもしれない。
因みに、根っこからすっぽ抜けようが、ワインの品質には問題ない。

都心駅ナカの高級スーパーで働いていた頃、OLが「スクリューキャップが根っこからすっぽ抜けて気持ちが悪い」と言う理由で返金を迫ってきた。
商品はスマイルのコノスル ゲヴュルットラミネールのハーフボトルであった。

ところが肝心のボトルの中身がない、空のボトルを差し出してきた。
交換を迫るなら中身を捨ててはいけない、これは当然のことである。

OLに聞くと気持ち悪いから中身はトイレで捨てたとのことであった。
私は渋ったが、当時のマネージャーはワインに詳しくなかったこともあり返金してしまったのである。

トイレに捨てたと言っていたが、実際は自分の「胃の中」に捨てた可能性も捨てきれない。
そうだとすると、OLはワインを飲み干した後に返金を受けたことになる。
つまり無料でコノスルをゲットした・・かもしれない。

管理人運営のショップ

未経験からワイン業界へ飛び込み、資格を取得した管理人のショップ。
自分が「美味しい!」と感じたワインのみ扱っています。
未経験でも頑張れば、人生は何とかなります。

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まとめ

ブショネや熱劣化等の状態不良は必ず発生するものだ。
クレームが来た時は一人ではなく必ず複数人で対応し、その不良の原因がどこにあるのかを見極める必要がある。
しかし、現場ではそうもいかないので、上司の指示を仰げば良い。
自分が店長だった場合は、ワインの価格によって柔軟に応じることになるだろう。

悪質なクレーマーは台風のように自然発生するもので、遭ってしまったら運が悪かったと言うことだ。
そう言うものだと割り切って、翌日までダメージを残さないことが重要である。

今回は返品について解説したが、いずれ万引き編も書こうと思う。

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「WINE LINE」は無資格状態からワイン業界に転職し現場で揉まれ、ワインエキスパートを取得して最終的に独立まで果たした管理人の雑記ブログです。本業と副業で、ワインショップや酒売場の勤務経験が15年突破しました。ひたすら現場主義!ワインエキスパートと調理師の資格所持。ワイングラス日本酒アワード審査員。宜しくお願いします。 ▶プロフィール・お問い合わせ

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